お侍様 小劇場
 extra

   “春は名のみの?” 〜寵猫抄より


北日本や日本海側の豪雪地帯では、
多いところで とうとう4m越えとも言われるほどの積雪が観測され。
国道で100台以上もの車が一晩中立ち往生を強いられたり、
やはりやはりJRその他の列車が動けないという事態が発生し、
帰るに帰れぬ一夜を、動かない列車の中にて明かす羽目になったりと。
睦月最後の夜は、途轍もない極寒豪雪の風景を、
日本の北側のあちこちにこれでもかと刻んで過ぎていったワケだけれど。

 「確かに明け方は随分と冷えもしましたが。」

ベッドから出るのが本当に本当に大変と言いますか、
身を起こすのに一瞬でも躊躇が挟まるようになっただなんて、

 「この冬が初めてですよ、そういえば。」

寒さを全く感じないワケではないが、
どちらかといや暑いのが苦手な辣腕秘書殿。
寒い方へは堪えも利く方との自負もあり、
朝起きて布団から出られないだなんて、
生まれてこのかた、経験したことはなかったのにと。
降雪とは縁がないながら、
そういう体感でもこの冬がいかに尋常ではなかったかを語る、
金髪の美丈夫のお膝から、

 「にゃうみゃ、みゅう、にゅう。」

小さなお手々をはたはた振って、
こちらさんも何かしら大いに語りたいらしきおちびさんが、
甘いお声を放っておいで。
小っちゃなお指の、
1つ1つの関節が殊更に丁寧な細工のようにも見える、
もみじみたいな小さなお手々をうんと開いての。
自分のお膝へも掛かったコタツのお布団を、
パフパフパフと叩く様の、
何とも腕白で、だのに幼く愛らしいことか。
ピアノの熱演にも見えるよな、そんな動作に合わせてのこと、
軽やかに揺れたふわふかな金の綿毛を、
真上から見下ろす格好となっている七郎次なぞ、

 「〜〜〜〜〜。/////////」

結構なお手前、もとえ 暴れっぷりだったのが、
なのに、お茶目なお遊戯でもご披露いただいたように見えたのか。
白い手をきゅうと握り込め、
妙なお声が洩れ出さぬよう、
口許に添えての押さえる様子も相変わらずで。

  まだまだ“惚れてまうやろ”も健在な模様。
(う〜ん)

とはいうものの、

 「久蔵は何かしら寒い目に遭ったのか?」

愛らしいという点へは理解も及ぶが、
何を言いたいのかまでは、
七郎次ほどには酌み取れぬらしい勘兵衛が。
こうまでの激情示して一体何を言いたかったのだろかと、
至って無難なことをあらためての訊いてみれば。
ふんわりとしていて瑞々しくて、
まるで和菓子のぎゅうひ餅みたいな、
頼りない柔らかさな手触りと肉づきの坊やのお手々。
下から掬い上げるよに自分の手のひらへと掲げ持ち、
よいよいよいと上下させての“いい子いい子”と遊んでいた七郎次曰く、

 「さぁて。」
 「……おいおい。」

見れば久蔵も、憤慨の様子はあっさり引っ込めての、
七郎次の手のひらへ自分の手を伏せ、
きゃっきゃとはしゃいでおいでなので。
どうやら、単なる大人の真似の類いだったらしくって。
七郎次が着ている柔らかなモヘアのセーターを背もたれにし、
目許をたわめの、緋色の口許をほころばせのと、
愛くるしい坊やが、満面の笑みを頬張っている図というものは。
どちらかといや“可愛いvv”礼讚者ではない勘兵衛でさえ、
釣られて口元が緩みかかるほど、
心に何とも言いがたい温みをそそがれる光景であり。
何に気があったのか“ね〜vv”なぞと声を合わせる彼らに気づき、
優しい連れを見上げる幼い横顔から視線をたどれば。
そちらは青玻璃の双眸をやはり柔らかにたわめての、
とろけるような甘い笑みにて、
間近い坊やを見下ろす女房殿のお顔。
それでなくとも愛しくも麗しい白面が、
彼には横手にあたる、大きな掃き出し窓からの陽を受けていて。
頬やら前髪やら、優しいハレーションを起こしているのが、
何とも目映く、そのまま春めきの暖かさをまで感じさせるほど。

 「そうなんですよね。
  陽射しだけなら、
  素晴らしいほどの“春の手ごたえ”感じさせますものね。」

あんなにも寒かったのが、
ほんの半日、いやいや数時間ほど前のこととは思えぬほどに、
そりゃあ暖かな陽射しが降りそそいでいるリビングであり。
今朝方めくったカレンダーも、黄色やクリーム色の花束が愛らしく、
そういえば暦の上では、節分・立春といよいよの春を謳った節季も間近。

 「そういえば去年は……」

今時分といや…なんて、七郎次が思い出しかかったのに合わせ。
お膝に懐いていたはずの仔猫様、
こたつ布団にか弱くも掴まっての、よーいちょよいちょと立ち上がり。
小さなあんよで とたとたと、
ラグを敷いてた床を叩くような足取りも、相変わらずの愛らしく。
同じリビングの、サイドボードの方へと向かうと、
飾り棚のように使っている一角から、
小さなお手々で挟み込むようにして持ち上げたのが、
どこだったか出版社の方からいただいた、
小型で軽量、最新式のフォトフレームだったりし。

 「にゃあみゅう♪」
 「そうだったねぇ。」

雪の多いカンナ村にて、
そんな雪を使っての“かまくら遊び”を堪能させていただいた折の、
わいわいと楽しかった雪遊びの様子、
写真や動画で収録してあるICカードをセット中のフレームであり。
兄弟のようにそっくりな、向こう様のキュウゾウくんと二人。
澄み渡った青空の下で、
ちょっぴりユーモラスなバランスになった雪だるまを作っていたり。
そりゃあ丁寧に固められたドーム状のかまくらから、
ご用意いただいた綿入れを着て無邪気なお顔を出してみたり。
向こうのお国のシチロージさんやカンベエさん、
ヘイハチさんらとご一緒に、
立派な囲炉裏を囲んで湯気いっぱいのお椀を抱え、
甘くて美味しいお善哉や上手に炙った干し芋をいただいてたり。
ネズミのおもちゃの追いかけっこもしたし、雪合戦もした。

 「今年はどうなさってるんだろか。」
 「うむ。」

先だって、こちらの仔猫が遊びにおいでとのお誘いを受けたが、
こちらがそうなのへと連動するかのように、
あちらもやはり ただならぬ大雪だったとか。
暮らし向きには、
そういう土地ならではの知恵や工夫が幾つもおありなのだろうから、
大変な中、それでもちゃんと切り抜けていらっしゃるのではあろうけど。
そんな大変なところへと、
勝手の判らぬ小さいのが自力で行けるわけもなし。
あちらのキュウゾウくんにしても、
雪かきやらお手伝いやら、毎日忙しくお過ごしだろうし。

 「今年は遊びに行くのも来てもらうのも、春までお預けなのかなぁ。」

コタツの天板の上に据えたフォトフレームの液晶画面、
収録した写真がゆっくりと入れ替わるのを眺めつつ。
小さな坊や、今度は島田せんせえのお膝によじ登って、
にゃあにゃ?と何事かを熱心に話しかけておいでなの、

 「うん? そ、そうか、それは困ったの。」
 「にゃっ? んにゃう、みー。」
 「困った話ではなかったか? 済まぬ済まぬ。」

ちょっぴり頓珍漢なやりとりになるところを、
くすすとこっそり微笑って見やった七郎次としては。
まだまだどうなるかは未定なれど、
もしもお越しになったらお腹いっぱい食べてもらわにゃねと、
今年もまた、これでもかと恵方巻きを巻くお支度も整えており、


  カンナ村でもこの極寒、一休みモードに入ればいいのにねと。
  ガラス窓の向こう、
  それはほかほかした陽の降るお庭を眺めやった青い眸の先。
  ちらり横切った金の綿毛の主へと向けて。
  小さな坊やが跳びはねて喜んでの駆け寄るまで、約3分前……。




   〜Fine〜  2011.02.01.


  *これも寒さのせいでしょか、
   今時分から猫の愛の季節の第1弾が始まるはずですが、
   ウチのご近所はまだ静かです。
   でもでも、昼間の陽気は窓越しでなくとも暖かですし、
   ヤ○ザキ春のパン祭りも始まりましたし。
(おいおい)
   やっとのこと春めいての、暖かくなるのも間近なのでしょうかね。

   昨年の春を思うと、微妙に懐疑的にもなりますが。
(苦笑)


  *昨年と言えば、
   同じころに『
追儺の祓い』というお話で、
   かまくら遊びなぞして楽しい節分を過ごした彼らでございますが。
   今年はそれどころじゃあないほど、
   カンナ村でも大雪が降っているのだとか。
   恵方は南々東だそうなので、
   豆まきが済んだら そちらを向いての黙々と、
   鬼の金棒に見立てた巻き寿司にかぶりつき、
   どちら様もどうか息災でお過ごしくださいますように。

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る